
都道府県歯科医師会地域保健・産業保健担当知事連絡協議会から
長寿医療制度のキーワードは,患者情報共有と医療連携
講演「新健康フロンティア戦略に歯の健康力の役割について」
花田信弘氏(鶴見大学歯学部探索歯学講座教授)
厚生労働省の国立保健医療科学院口腔保健部から今年7月に鶴見大学歯学部に移った.私がやりたいことは,新しい医療制度に対応できる歯科医師を養成することである.
具体的には医療の他の職種との医療連携と情報の共有であり,これからの新しい医療職種方向になる絶対的な要項である.臨床検査ではきちんとした系統だった教育をしていきたいと考えている.
歯を守るためには歯周病の予防が大切であるが,全身の健康を守らないと80歳,90歳の人が守れないことがはっきりとしてきた背景がある.大久保会長の尽力で新健康フロンティア戦略(内閣官房長官主宰の賢人会で立案)に“歯の健康力”が加わった.
メタボリックシンドローム克服,がん克服,歯の健康力の3つが健康国家への挑戦として取り上げられた.これを都道府県にきちんと認識させていくことが重要である.歯科医師の先生から行政に歯の健康力について伝え,具体的な施策を行政側も行っていくことが大切である.
財務省はあからさまに国の借金についてホームページに出している.平成19年度の国債残高は547兆円で,国民1人当たり428万円の借金で,主要先進国でも最悪の水準だと発表している.新たな借金が24兆円で社会保障費が21兆円,月収に換算すると57・5万円の人が82・9万円使っている.21万円の借金を返済していると仮定している.借金返済に21億円,地方への仕送り14・9兆円,そこで社会保障費に手をつけたいとしている.
健康日本21は,在宅の生活者をサポートする医療である.栄養,運動,休養,たばこ,アルコール,糖尿病,循環器病,がん,歯の健康が課題だ.
また,長寿医療制度における歯科の役割は,在宅歯科医療等の推進であり,在宅療養支援歯科診療の創設などがある.所定の研修を受講した歯科医師,歯科衛生士の配置は設備基準である.また,長寿医療制度のキーワードは患者情報共有と医療連携であり,歯学部では臨床検査教育の充実が必要である.
“歯の健康力”とは,歯の健康づくりである.平成20年度の予算は69億円で,ほかに8020運動の推進4・7億円,歯科医師等に対する口腔ケア等講習会に2,900万円である.
“歯の健康力”の役割は,口腔機能訓練(脳),健康づくり(栄養器),感染防御(全身の臓器),8020(顎骨)である.特に口と手に脳から大規模な運動指令が出ている.咀嚼と脳の関係もあり,歯の健康は栄養と全身の健康の架け橋である.
歯の喪失と栄養につては,厚生労働科学研究がある.また,歯周病と糖尿病の関係があり,米国糖尿病教育プログラムには,眼,足,口を一緒に管理している.顎運動と身体運動が課題である.アンケート調査でも歯は20本以上残存している高齢者は,19本以下の高齢者よりスポーツと旅行への参加で有意な差が認められた.
片足立ちや脚伸展力も咀嚼力の高い高齢者が有意に優れていた.また,兵庫県歯科医師会の8020達成者のデータでは,歯の少ない人は糖尿病や循環器系疾患になりやすかった.認知症にもなりやすかった.
以前は自宅で亡くなる人が多かったが,1975年を境に比率が逆転して,病院で亡くなる人が増加した.現在はほとんどの人が病院で亡くなっている.
厚生労働省は生命の医療から生活の医療を目指している.そこで,歯科医師としてどのように主体的な役割を果たすかを考えなければならない.病院は死ぬところではなく,病気を治すところに位置づけ在宅の生活者をサポートするという視点が必要である.歯科医療はこのような大きな流れの中で,どのような役割を担っていくかである.

地域保健・産業保健担当知事連絡協議会を開く
都道府県歯科医師会地域保健・産業保健担当知事連絡協議会が7月8日,日本歯科医師会大会議室で開かれ,地域保健・産業保健対策の進め方について協議した.
最初に会議資料の紹介が以下のとおりであった.
1)平成20年度地域保健・産業保健 今後の進め方,2)平成20年度生活習慣病対策口腔保健モデル事業(成人歯科健診モデル事業)実施要領,3)日本歯科医師会会員等食育意識調査と結果,食育に関する目標値,4)歯科医療現場での禁煙支援モデル事業,5)第36回産業医講習会実施要領,6)第36回産業歯科医研修会実施要領,7)歯周疾患の予防等に関する労働への配慮について,8)口腔保健法(仮称)の制定に関する基本的考え方(概要),9)2008年集団フッ素洗口実態調査報告について,10)日本歯科医師会地域保健・産業保健ネットワークについて,11)歯周疾患の予防に関する労働者への配慮について(厚生労働省労働基準局),などが紹介された.
また,千葉県歯科医師会提出資料,1)幼児の食べ方の指導,2)食育から長寿へ〜生涯の食生活とよい生活習慣を支えます,が紹介された.
ついで,日歯の大久保満男会長の挨拶と来賓の挨拶が以下のとおりであった.
<大久保会長挨拶> 地域保健の新しい課題が色々とあり広がりをもってきた.歯科医師会の最も公益の事業を現場で担っているのが地域保健であり,みなさんにお礼を申し上げたい.
日歯は様々な分野を担わなければならないが,その構想を描ききれていない.企業の協力で1,200名ほどが参加する市民講座を年4回ほどやっており,毎回会場が一杯になる.地域保健の情報をどのように発信するのかであるが,メッセージの質が問われている.
また,厚生労働省の様々な分野に歯科が入る状況になった.その意味で国民に対して,メッセージを発信することが我々に課せられた大きな責任であるが,国を相手にすると思ったようにはいかない.
新健康フロンティア戦略の構想を聞いたとき,30年来の家族ぐるみで付き合っている当時の柳沢厚生労働大臣に面談し,賢人会議のメンバーに入れほしいと頼んだ.しかし厚生労働省の管轄ではなく,内閣府であったので当時の安倍官房長官に電話を入れてくれたが,賢人会議には日本医師会の会長も入っていないのでメンバーになるのは無理であったが,その代わりに歯科の問題を取り入れてほしいとお願いした.
今,国中で国民の健康をどうするのかが,問題となっている.それらの動きをすべて把握して,全部に歯科を入れていくことにしている.様々に取りざたされているが口腔保健法(仮称)のような歯科の単独法があるべきである.政治の場からそのような声がかかってきた.その意味で我々の正念場である.日歯としての地域歯科保健の方策は,地域のみなさんが現場で取り組みやすい地域歯科保健の基盤の整備をすることである.
私は地域歯科保健でこれまでやってきたが,現場を離れてしまうとわからなくなる,という危機感を常にもっている.そこで叱咤激励をしていただきたい.日歯として誤りのない施策を行っていきたい.本日の活発な議論を期待している.
<来賓挨拶> 厚生労働省労働基準局労働衛生課長 金井雅利氏 成果主義の導入や働き方の多様化が急速に進む一方,労働者のストレスなどによる健康障害も急増している.そうした中,今通常国会に「改正労働安全衛生法」が提出され,企業にメンタルヘルス(心の健康)対策の充実が求められるようになった.
これまで企業のメンタルヘルス対策については,強制力のない指針によって国の対策が示されていただけだった.しかし,今回の改正労働安全衛生法で,企業は医師による面接指導(問診やその他の方法で心身の状況を把握し,面接で必要な指導を行うこと)を行い,必要と認められる場合には就業場所の変更,労働時間の短縮,休暇の付与,深夜業の回数の減少など,適切な措置を講じなければならないことが義務付けられた.
将来的には健康管理は,地域保健と連携していかなければならない.健康情報と健康を維持,増進するための具体的事業を行っていかねばならないと考えている.地域職域との協力,連携により国民の健康長寿を実現していきたい.
厚生労働省医政局歯科保健課長 日高勝美氏 新健康フロンティア戦略に歯の健康力が取り上げられた.課題は歯周病対策であり,口腔ケアである.特に高齢者に対する対応が重要である.新規事業として,在宅歯科医療,口腔ケアを推進する歯科医師や歯科衛生士を養成する講習会を実施する.
あわせて在宅歯科医療の補助制度を設けた.さらに今年は8020運動が提唱され20周年を迎えた.新しい展開として,新健康フロンティア戦略に歯の健康力が明示された.鶴見大学歯学部の花田信弘先生に講演していただくが,歯の健康力で最近の動向と今後の方向性について花田先生の立場でご意見をいただきたい.
一方,安定的で持続可能な医療制度が求められている.厚生労働省としては,医療に関する情報提供の推進,医療安全のための医療従事者の資質の向上など各種の施策を推進しているが,安全,安心な歯科医療体制の整備が課題である.国民の地域医療を担っているベテランの方々が集まった本日の会議の論議に期待している.厚生労働省としては引き続き歯科保健対策の充実に努めたい.
来賓挨拶についで,池主憲夫常務理事(地域保健・産業保健)は担当役員として挨拶し,「歯科に対する認識が変わってきた.明るい材料の1つである.それを踏まえて地域保健・産業保健を効果的に進めていくことが,大きな課題である.地域保健・産業保健委員会としては,関連プロジェクトとして,13の課題を決めた.これは目標と行動計画である.使命とビジョン,地域保健・産業保健委員会の基本原則を設定した.これで具体的な活動を行っていく」と述べた.
また,これまでと違った流れとして,「あらゆる制度的な問題が,中央から地方へ運営されていく.つまり現場で国の施策がどのように反映されるかである.ここ2年間で国の方針や方向性が明確にされた.日歯の役割は情報の提供であるが,日歯は現場で情報がどのように活用されるのか,一歩踏み込んで考えることが大きなテーマである.そこで日本歯科医師会地域保健・産業保健ネットワークを立ち上げた」と主旨を語った.
このあと「新健康フロンティア戦略の歯の健康力の役割」で鶴見大学歯学部探索歯学講座教授の花田信弘氏が講演した.講演後は地域保健・産業保健対策の進め方について協議した.